機能性素材に関する研究

EPA(エイコサペンタエン酸)

EPA(エイコサペンタエン酸)はイワシなどの青魚の油に多く含まれるn-3系高度不飽和脂肪酸(※1)の一種で、動物油脂にはほとんど含まれず、体内で必要量を作ることはできない必須脂肪酸(※2)です。
ニッスイでは、EPAの持つ多様な作用に注目し、医薬品原料や機能性原料として生産・供給するほか、特定保健用食品・機能性表示食品、サプリメントなどの健康食品にも応用しています。

EPAの構造式

EPA研究のきっかけ

EPAが脚光を浴びるようになったのは、1963~1967年にかけてデンマークのダイアベルグ博士らが行った、デンマーク自治領であるグリーンランドの人々を対象に行った疫学調査(※3)がきっかけです。

この調査結果を元に、

が報告されました。
その後、EPAは世界中で着目され、さまざまな研究が行われています。

マイワシと食用油の主要脂肪酸組成(%)の比較

EPA DHA パルミチン酸
(※4)
ステアリン酸
(※5)
オレイン酸
(※6)
リノール酸
(※7)
医薬用EPA原料のイワシ油 *1 18.2 13.5 13.7 2.4 14.2 1.2
大豆油 *2 0 0 10.6 4.3 23.5 53.5
ラード *2 0 0 25.1 14.4 43.2 9.6
  1. *1当社分析値
  2. *2出典:五訂増強 日本食品標準成分表 脂肪酸成分表編(2005年)

EPAの医薬品化への取り組み

1980年ニッスイは、EPAの高度精製技術の確立に成功し、世界に先駆けて医薬品としての開発を開始し、1981年には製薬会社と医薬品開発の共同研究を開始しました。その後、着実に臨床試験を進め、1990年には、高純度EPAを使用した世界初の閉塞性動脈硬化症の治療薬が発売となりました。さらに、1994年には高脂血症(※8)の適応症が拡大されました。ニッスイでは、現在に至るまで30年以上もEPA製剤の医薬品原料の安定供給を担っています。

また、EPAは、現在でも循環器系疾患の予防、抗アレルギー作用、発ガン抑制作用、抗炎症作用などさまざまな生理機能の研究が行われています。

高純度EPAを量産するニッスイの精製技術

天然油脂(※9)にはグリセリン(※10)と脂肪酸(※11)が結合した形で、非常に多種の脂肪酸が共存しており、原料となるイワシ油に含まれるEPAは20%前後といわれています。これを濃縮することで、一般的に販売されている健康食品となります。

一方で、EPAが医薬品として認可を取得するには、現在96.5%以上の純度が求められます。酸化しやすいため取り扱いも難しいEPAですが、ニッスイが開発した独自技術で、一時蒸留、高度精製を組み合わせることで、環境有害物質を除去することに成功しました。これによって、96.5%以上の純度まで高めた高純度EPAを量産することが可能になり、現在、医薬品原料として広く利用されています。

高純度EPAの製造工程

さらに広がるEPAの可能性

現在でも、数々の機能の研究が進められているEPAですが、今後も世界的に需要が拡大していくことが見込まれています。
ニッスイは、2021年に、米国食品医薬品局(FDA)の認可を受け、EPA医薬品原料のグローバルサプライヤーとして米国への輸出を開始しました。さらに、ヨーロッパやアジアなどの世界の医薬品市場に高純度EPAを送り出す体制を整えています。


  1. ※1n-3系高度不飽和脂肪酸
    脂肪酸のうち二重結合を多く含むものを高度不飽和脂肪といい、さらにn-3系(EPA、DHA、α-リノレン酸など)とn-6系(リノール酸、アラキドン酸など)に分類されます。
  2. ※2必須脂肪酸
    私たちの体に必要ですが、生体内では作り出すことができず、食事などで摂取しなければならない脂肪酸のことをいいます。
  3. ※3疫学調査
    ある集団における食生活や環境因子などと疾病との関係を調べ、統計的処理を行い、原因を調査することです。
  4. ※4パルミチン酸
    天然に広く分布する脂肪酸の1種。炭素数16、2重結合のない飽和脂肪酸。
  5. ※5ステアリン酸
    パルミチン酸と同様の炭素数18の飽和脂肪酸。
  6. ※6オレイン酸
    炭素数18、2重結合が1つの脂肪酸。
  7. ※7リノール酸
    植物に多い脂肪酸で炭素数18、2重結合を二つ有している。末端の炭素から6番目の位置に2重結合のあるn-6系脂肪酸の一種。
  8. ※8高脂血症
    血液中のコレステロールや中性脂肪値が高まった状態。
  9. ※9天然油脂
    動植物から得られる中性の脂質。通常はトシアシルグリセロールの形で存在します。
  10. ※10グリセリン
    油脂を構成する主要な成分。食用油は主にグリセリン1分子に脂肪酸が3分子結合した構造を有するトリアシググリセロールから構成されます。
  11. ※11脂肪酸
    油脂を構成する主要な成分で、その構造から数多くの種類が存在します。脂肪酸の種類には植物油に多く存在するオレイン酸、リノール酸、魚油に多く存在するEPAやDHA(ドコサヘキサエン酸)があります。
  12. ※12エチルエステル
    グリセリンの代わりにエタノールが結合した化合物。エステルとは結合様式を指し(-COO-)、グリセリンとの結合でも同じ構造です。
  13. ※13HPLC
    高速液体クロマトグラフィーという装置。分離カラムと高圧の液体を用いて化合物を分離する仕組みで、アミノ酸の一斉分析を実施しています。