ニッスイグループの養殖事業

世界規模で水産物の消費量は拡大しており、今後も需要増加が見込まれます。ニッスイは、安全・安心でおいしい魚をお届けするため、国内外で養殖事業に力を注いでいます。

ニッスイならではの養殖への取り組み

ニッスイは海外ではサケ・マス、国内では、ブリ、マグロ、ギンザケ、サバ、フグなどの養殖事業を展開しています。
ニッスイは食品メーカーとして「食べ物のおいしさ」にこだわり、それを起点として、養殖魚を生み出す、種苗、飼料、養殖、加工、流通の全ての段階でさまざまな研究、技術開発を進めています。
また、量販店や中食・外食など顧客別の担当が把握したお客さまニーズを関連部署にフィードバックすることで、ご要望にお応えした技術を開発しています。

トウガラシを配合した飼料で肉質改善

養殖のブリは、かつては脂が乗りすぎていると評価を落としていました。どうしたら適度に脂が乗り、しっかりした歯応えのあるブリができるのか、どうしたら脂を筋肉の中に細かく分散できるのかを考えた結果、1996(平成8)年、トウガラシを配合した飼料を与えたブリが、同量の魚油を摂取したブリに比べて、適度な脂乗りになっていることを確認しました。トウガラシを配合したブリ用肉質改善飼料は、「大理石のような脂乗り(=マーブリング)」を少なくする効果があるとして「マブレス」と名付けられ、商品化しました(図1)。

その後もマブレスを実際の養殖現場で与え、検証を繰り返したところ、マブレスには、①ほどよい脂乗りに仕上げる効果(=筋肉への過剰な脂質の蓄積を抑制)、②歯応えを向上させる効果、③血合筋の退色を遅くする効果(=血合筋の色調変化の遅延効果)があることが確認されました(特許第3895133号、特許第4382795号、特許第4809914号、特許第4856858号)。実は、ブリは血合筋の色の変化が早い魚で、鮮度に問題がなくても、血合筋が退色した刺し身や切り身は見た目が悪く、商品価値が低下してしまいます。マブレスには、血合いの退色を遅くする効果もあったのです(図2)(図3)。

【図1】マブレスの特長

【図1】マブレスの特長

トウガラシを添加したマブレス飼料により、黒瀬ぶりは、血合いの色が鮮明で退色が遅く、歯応えが良く、脂肪分がほどよく乗り、しっかりした食感があります。

【図2】黒瀬ぶりと他社ブリの血合筋の比較

刺身加工8時間後(15℃保存)
血合筋の色変化

メト化*1)の進行程度を測定し、刺身加工時の色を基準として色調保持率を算出。
*1)メト化:肉の褐色化。血合筋に含まれる色素たんぱく質ミオグロビンが酸化されてメトミオグロビンになることが原因。

【図3】人工種苗由来の黒瀬の若ぶりと成熟の影響を受けた天然種苗由来ブリの官能評価

赤線「黒瀬の若ぶり」 青線「天然種苗ブリ」
分析型項目
嗜好型項目

**は危険率1%未満、*は危険率5%未満で若ぶりと成熟ブリに有意差が認められたことを示す。

グループ会社の黒瀬水産株式会社(宮崎県)が2004(平成16)年5月から、水揚げする前の仕上げ時期にマブレスを与えた「黒瀬ぶり」の出荷を開始したところ、鮮魚店や量販店などから大変高い評価を受けました。黒瀬ぶりは、飼料による商品差別化、ブランド化の先駆けとなり、世界一厳しいといわれるヨーロッパへの輸出ライセンス「EUーHACCP」も取得しました。
黒瀬ぶりの成功を受けて、柑橘類など各地域の特産品と組み合わせて肉質を改善し養殖ブリのブランド化を進め、差別化を図ろうとする動きが顕著になっています。

魚を健康に育てる

ニッスイでは高品質の養殖魚を安定して育てるために、養殖魚の健康管理や養殖環境のモニタリングの研究を行っています。そして、これらの研究成果を養殖会社が有効に活用して養殖生産を安定させるN-AHMS®(NISSUI Aquaculture Health Management System、ニッスイ養殖健康管理システム)を構築しました。黒瀬水産(ブリ)では、潜水士が生簀(いけす)に潜って魚の健康状態をチェックし、不調な魚がいれば取り上げて解剖し鰓えらや内臓を観察、細菌検査をして原因を探ります。西南水産(クロマグロ)、金子産業(マグロ、フグ)、弓ヶ浜水産(ギンザケ、ブリ、サバ)、サルモネス・アンタルティカ(サケ・マス)などグループ養殖会社に展開し、養殖魚の健康管理や養殖環境のモニタリングを進めています。

【ロゴ】N-AHMS

ニッスイならではの養殖への取り組みの具体例

冷やすことにも一手間かけて

ニッスイはブリの血液循環や呼吸の特性の研究から、水揚げ時のストレスを緩和させることで、ブリの鮮度を保持させる方法を開発しました(特許第5276359号)。この新方式で水揚げしたブリではエネルギー充足率が従来方法と比べて高いため、活け〆後の鮮度が長時間保持されます。この水揚げ方法は黒瀬ぶりの水揚げ方法に用いられています。この方式により、海水温が高い夏場でもしっかりと冷やすことができるようになりました。

水揚げされたブリは、生簀に横付けされた活け〆船にたも網ですくい上げられた後、直ちに活け〆機に投入されます。船倉には食塩水を氷点下まで下げたシャーベットアイスが積み込まれていて、活け〆されたブリがダイレクトに投入され、脱血と冷却が同時に行われます。シャーベットアイスは氷のきめが細かいため、ブリを傷つけることなく、一気に魚体温を下げることができます。また、シャーベットアイスは海水に近い塩分濃度のため、浸透圧変化による肉質の劣化を防ぐ効果もあります。

脱血処理を行うと水揚げ後に大量の血水が残りますが、これをそのまま湾内に放流すると水質汚染を招きます。そのため黒瀬水産では、加工場に併設した排水処理施設で血水を微生物分解し、浄化した水を川に放流しています。

活け〆されて冷却と脱血処理の行われたブリは、船からすぐに黒瀬水産の加工場に搬入されます。加工場は世界一厳しいといわれるEU-HACCP「厚生労働省・農林水産省 対EU輸出水産食品取扱い施設」認定取得のため、施設の改修や社員教育に取り組み、2007(平成19)年に認定を取得しました。また養殖と加工とが一体となって「安全・安心でおいしい魚をつくる」取り組みを強化するため、2011(平成23)年に養殖から加工まで一貫したISO22000を取得しました。

夏でもおいしいブリ

ブリは春から初夏にかけて産卵します。産卵後の夏場のブリは痩せて、脂も少なくなり、品質が低下します。ブリでは筋肉の脂質含量が少ない時期と身が柔らかくなる時期が一致する傾向にあることも示されています。また、生まれた子どもは翌年の春は、まだ十分には育っていません。前年生まれのブリも産卵はしなくても生殖腺は発達するので、成熟の影響を受け品質は低下します。

ニッスイは独立行政法人水産総合研究センターと共同で早期種苗生産技術を開発しました。この技術を活用しニッスイは親となるブリを陸上水槽で飼育し、天然魚の産卵期よりも数カ月以上早い時期にブリを産卵させて種苗を量産できるようになりました。「黒瀬の若ぶり」は、夏場にちょうど良いサイズに育ち、脂が乗り、身がしっかりしています。夏場でもおいしいブリとして、新たな市場を開拓できるようになりました。

若ぶりの養殖生簀

若ぶりの養殖生簀
黒瀬水産(宮崎県串間市)

養殖事業の高度化の展望

養殖事業をより高度なものにするには「データを蓄積して、分析、評価し、次の策につなげる」というサイクルを繰り返し、学習を進めることが必要です。

選りすぐりのブリを生み出す

ニッスイでは、安定的な養殖ビジネスの確立のため、健康管理のほか、天然の稚魚の捕獲に頼らない人工種苗の開発と育種の研究を進めています。2005(平成17)年からブリについて研究を始め、近年は大量生産を可能にする技術が蓄積され、選抜育種の技術も整いました。選抜育種とは、形質の優れた親を選別して第2世代を生産し、さらに形質の優れた第2世代から第3世代を選別するという育種方法です。ブリにタグを打つことで確実な個体選別が行われます。選抜育種はサケ・マスでも事業化レベルで進めています。現在は、マグロで研究が進められています。

魚が食べたいときに餌を食べるシステム

外洋に面した養魚場は、限られた時間で給餌する必要があり、天候によっては給餌船が沖合へ出られない日もあります。しかし、一般の自動給餌システムは、タイマーやあらかじめコンピューターに設定したプログラムで決まった時間に決まった量の餌を出すだけで、魚が食べずに無駄な餌となって漂う可能性があり、コストを上昇させる上、それが水質を汚染させるため環境的にも問題がありました。

そこでニッスイでは、生簀内に設置した食欲センサーや水中カメラ、溶存酸素・水温センサーから情報や画像をパソコンやタブレット端末、スマートフォンに伝送させて、リアルタイムでチェックできる自動給餌と自発摂餌給餌を組み合わせる給餌システム「Aqualingual」を開発しました(特許第5324997号)。これにより適量で無駄のない給餌管理ができるようになり、すくすくと魚が育ち、環境面でも汚染がなくなりました(図4)。

【図4】ニッスイAqualingual®の給餌例(鳥取境港でのギンザケ養殖)

【図4】ニッスイAqualingual®の給餌例(鳥取境港でのギンザケ養殖)

マグロにぴったりの飼料

マグロの育成には一般に生の魚(生餌)が使用されており、他の養殖魚種と比較して圧倒的に配合飼料の導入が遅れています。ニッスイは独立行政法人水産総合研究センターと共同でマグロが好む餌の物性やマグロの摂餌行動を調査し、従来の養魚用飼料とは異なる形状の飼料を開発(特許5030043号)するとともに、ニッスイ独自の製法と大量生産方式を確立しました。2013(平成25)年に佐賀県唐津市に新たな飼料生産設備を導入し、生産販売を開始しました。マグロ用配合飼料は、配合する成分を成長段階や出荷時期に合わせて設 計することで、成長性や肉質の改善を図れると期待できます。養殖場の環境負荷を低減させ、マグロ養殖の持続可能性を高めることで、安全・安心でおいしいマグロをお届けしていきます。

マグロ配合飼料の生産ライン

マグロ配合飼料の生産ライン
ニッスイ伊万里油飼工場唐津まぐろプラント

マグロの完全養殖を事業につなげる

ニッスイはマグロの完全養殖の実用化に取り組んでいます。これまでの一般的なマグロの養殖は、専用の生簀で飼育したマグロの親魚が自然産卵した受精卵を回収し、種苗生産するもので、どの親魚がいつ産むかわからないという大変に不安定な生産方法でした。

しかも、マグロの種苗が生餌しか食べないため、イシダイなど餌となる魚の親魚を生産し、そこから取れる仔しぎょ魚をマグロ種苗の餌としていました。1尾のマグロ種苗は多いと1日1,000尾以上の孵ふか化仔魚を摂餌するため、マグロ養殖の高コスト化を招いていました。

ニッスイでは2009(平成21)年から、出荷したマグロから精子と卵を採取して受精させる人工授精法の研究を進め、2011(平成23)年に人工授精によって得られた人工種苗由来のマグロから受精卵を採取し、2014(平成26)年に完全養殖に成功しました。

マグロ種苗の餌については、2014(平成26)年、生餌の代替飼料となる配合飼料の開発に業界で初めて成功しました。これは、マグロ種苗の成長を促す特別な処理を施したプランクトンと微粒子飼料からなるもので、これによって、イシダイなどの孵化仔魚を使わない種苗生産が可能となりました。

マグロの種苗生産では、受精卵の質によって成長・生残が大きく左右されます。これからもデータを蓄積して分析、評価し、成長・生残の向上に努め、2017(平成29)年の実用化に向け研究開発を継続していきます。

稚魚から一貫して育てられるギンザケ「境港サーモン」の養殖場

淡水養殖場(左)、美保湾の海面養殖場(右)、弓ヶ浜水産(鳥取県境港市)

淡水養殖場(左)、美保湾の海面養殖場(右)、弓ヶ浜水産(鳥取県境港市)