人工種苗によるぶり養殖事業

2012年6月発行 第72号収録

発売以来「適度な脂乗りと血合いの色の良さ」で好評を得ている養殖ぶりブランド「黒瀬ぶり」。
これは養殖技術に関する研究開発、飼料の開発・生産、鮮度保持し衛生的な加工まで、ニッスイグループのネットワークを最大限に活かして生み出されたものです。

黒潮流れる「黒瀬ぶり」のふるさと

ニッスイグループの中でぶり養殖事業の中枢を担う黒瀬水産株式会社(宮崎県串間市)は、ニッスイの100%出資で2004(平成16)年1月に設立されました。2012(平成24)年4月1日現在、従業員数160名、浮沈式いけす400台超。年間出荷尾数は120万尾で、1尾5キロとすると、日本のぶり養殖の5%程度を生産する、国内最大級のぶり養殖企業です。

2004年5月から出荷が始まった「黒瀬ぶり」のふるさとは宮崎県の志布志湾です。黒潮が洗い、ぶりの養殖に最適な海域です。

「黒瀬ぶり」の養殖はぶりの稚魚である体重わずか2グラムの天然もじゃこの捕獲から始まります。毎年4~5月、日本近海で生まれたもじゃこは、流れ藻とともに黒潮に乗って志布志湾や日向灘に流れてきます。それを串間、内之浦(鹿児島県)の漁業者が捕獲し、志布志湾内の穏やかで清浄な海域に設けた専用の養殖場で飼育します。

秋になって1キロ前後に育った幼魚は、湾内串間沖3キロの黒瀬漁場に移され、成魚になるまでここで育ちます。いけすの大きさは縦横10メートル×深さ8メートル。給餌や作業時に海面近くに浮上させ、それ以外は海面下8~10メートルの水中に沈めさせる浮沈式になっています。

いけすを海中に沈めることで、台風や 時化しけ 、直射日光を受けるなどの被害を回避でき、魚のストレスを軽減することができます。ぶりは本来、中・低層を遊泳する魚で、一般的な浮上式いけすと比べ、より生態に近い環境で育てられます。

【地図】

黒瀬の「若ぶり」は夏が旬

【写真】黒瀬ぶり

黒瀬水産は2009(平成21)年6月から夏向け商材「黒瀬の若ぶり」の出荷を始めました。

「黒瀬の若ぶり」は、飼育した親魚から早期採卵した人工種苗技術の構築によって実現したブランドです。早期採卵人工種苗は、ニッスイ養殖事業推進室大分海洋研究センター(大分県佐伯市)と独立行政法人水産総合研究センターが、光周期(昼と夜の長さの違い)や水温を操作できる水槽を使った共同研究によって開発しました。この技術により肉質の良い2歳魚(数え年)がこれまでより1、2か月早く水揚げできるようになり、その後、大型の天然もじゃこから育てた2歳魚に繋ぐことで夏場でも変わらない良質のぶりを供給することができるようになりました。

通常、養殖ぶりは天然魚同様、3歳の5~6月にかけて産卵するため、産卵後の夏場は脂乗りが悪く肉質が落ちます。「黒瀬の若ぶり」は、ぶりが本来売りにくいとされる夏場に、肉質の良いぶりを提供することで、寿司店・料理店や小売店など多くのお客さまに喜ばれ、夏場の出荷数量を伸ばしました。つまり、年間を通して安定した品質のぶりを出荷することができるようになりました。

ニッスイが行った「黒瀬の若ぶり」と産卵後の天然種苗ぶり(3歳魚)との比較官能評価によると、分析型項目では、3歳魚のほうが酸味が強く、生臭い風味・においが強いと評価されました。対して「黒瀬の若ぶり」は脂の乗りが高いとの評価を得ました。また、嗜好型項目では、「黒瀬の若ぶり」の方が総じて好まれる傾向が見られました。特に、においの好み、味・風味の好みが高いことが特徴的です。

【図】若ぶりの肉質評価/比較官能評価