大分海洋研究センター

中央研究所大分海洋研究センターは、ニッスイが国内外で展開する養殖事業の研究開発を行うために1994(平成6)年に設立された研究施設です。当センターでは水産資源の持続可能性につながる養殖に特化した研究開発を進めています。最先端の研究開発(基礎研究)から最前線の研究開発(事業レベルへの応用)まで幅広い課題に取り組んでいます。

大分海洋研究センター

成熟制御

当センターでは、生殖生理の基礎知見に基づいて対象養殖魚の成熟を人為的に制御し、計画的に受精卵を採取する技術の開発に取り組んでいます。例えば、当センター周辺のブリの産卵期は春から初夏になりますが、開発した成熟制御技術を用いることで季節を問わず受精卵を採取できるようになっています。通常の場合、養殖を開始できるのは決まった時期となるため出荷適期も限定されてしまいますが、本技術によって養殖開始が周年化したため、年間を通して安定した品質のブリを生産できるようになりました。また、成熟制御技術の高度化は、狙った個体から良質な受精卵を得ることを可能とし、計画的な育種や種苗生産の安定化に繋がっています。ブリはもちろんのこと、クロマグロ、マサバ、カンパチにおいても技術開発を進めており、以下の種苗生産や育種研究を支えています。

種苗生産

当センターでは、水産資源を持続的に利用するため、養殖用の種苗の天然資源への依存度を下げる人工種苗の生産技術開発を進めており、ブリ、クロマグロ、スマ等の魚類だけでなく、エビ、マダコ等、広く水産生物を対象にしています。
ブリの種苗生産では、形態異常による成長不良が大きな問題でしたが、様々な試行錯誤を経て、2008年に高品質な人工種苗を安定大量生産する技術を確立しました。本技術は成熟制御と育種を組み合わせることで、成長性の高い人工種苗の周年生産を可能にし、夏が旬の「黒瀬の若ぶり」をはじめとして「黒瀬ぶり」を支える基盤技術のひとつとなっています。
従来、クロマグロの種苗生産では、クロマグロ仔魚の餌として、イシダイ、マダイ、シロギスおよびハマフエフキ等の孵化仔魚が大量に必要とされてきました。しかし、当センターでは、餌用の孵化仔魚を全く用いず配合飼料を主体とした種苗生産技術を2014年に世界で初めて実現し、10万尾以上の人工種苗の生産が可能となりました。また、クロマグロ仔魚同様に餌用の孵化仔魚の依存度が高いスマ仔魚にもその技術を応用し、餌用の孵化仔魚を全く用いない人工種苗の大量生産にも成功しています。
バナメイでは、SPF(Specific Pathogen Free、特定病原体を持たない)の親エビから品質の安定した種苗を安定大量生産する技術開発を進め、養殖エビの周年生産・出荷を可能にしています。
マダコは種苗生産が難しく産業的な養殖がありません。当センターでは、2016年に孵化幼生から人工マダコを生産することに成功し、翌2017年には人工マダコから孵化幼生が得られました。マダコの完全養殖を達成したことにより、産業的なマダコ養殖の実現に近づいています。

育種

育種研究では、養殖する魚介類自体を改良することで品質の高い養殖魚介類を提供することを目指しています。例えば、ブリでは人工種苗を用いて2010年から育種プロジェクトを進めています。このブリ育種は、和牛の育種を参考としており、DNAによる親鑑定を行うことでブリの家系図を作り、それらの情報を参考にすることで約1万尾分のデータを集積して、優良な親魚の特定や近親交配の防止を行っています。国内の養殖魚の育種は経験則による育種がほとんどでしたが、当センターのブリ育種は理論的な統計遺伝学に基づく育種プロジェクトになっており、すべての親魚が共通の基準(育種価(※))で評価されています。最近では、その成果が顕著にみられるようになっており、年間を通して十分な大きさで良質な肉質を持つ完全養殖ブリの出荷が可能になってきました。これらの完全養殖ブリは黒瀬水産株式会社で生産され、「黒瀬の若ぶり」として知られるようになりました。今後は、ゲノム情報を駆使して遺伝子改変技術を使わない育種を行うゲノム育種の導入や育種による更なる品質アップによって、お客様に喜んでいただける養殖魚をつくることを目指しています。また、ブリ以外の養殖魚の育種研究にも着手しており、ブリ同様に良質な養殖魚を作っていきたいと考えています。

育種価とは、育った環境を補正し、血縁個体(親、兄弟)等の成績も考慮することで推定される「個体の遺伝的能力」を表した数値である。飼育環境に左右されず、真に優良な親魚を特定する際に役立つ。

ブリ受精卵

大きく育った完全養殖ブリ(上:4.2kg)と
天然モジャコ由来の養殖ブリ(下:2.6kg)

健康管理

当センターでは養殖魚の安定生産を脅かす疾病の対策を研究し、ニッスイの養殖事業における安定生産に貢献しています。例えば、養殖で問題となる疾病のひとつに魚の体表に寄生するハダムシが挙げられます。当センターではハダムシの駆虫方法として、低濃度過酸化水素水薬浴法を動物用医薬品会社と共同で開発し、実用化しました。
また、ニッスイグループの養殖魚の健康を管理するN-AHMS®(NISSUI Aquaculture health management system)という仕組みを構築しています。N-AHMS®では、養殖魚の健康診断の精度と信頼性向上のため、養殖会社で養殖魚の健康診断を担うA級検査員や指導者などの社内認定制度を設け、検査の質の標準化を進めています。

陸上養殖

陸上養殖とは陸上に大型の養殖水槽をつくり、その水槽内で魚介類を育てる養殖システムです。陸上養殖では高密度、無投薬で安定的な養殖生産が可能です。さらに環境負荷も低減できる環境に優しい技術でもあります。
現在、当センターでは、SPF(Specific Pathogen Free、特定病原体を持たない)の親エビが入手可能なバナメイを対象に、バイオフロック養殖法での陸上養殖技術の確立を目指しています。バイオフロック養殖法では、養殖水槽外の濾過設備を使用せず、閉鎖系の水槽内で発生したフロック(微生物集合体)の管理がポイントになります。好気的環境を維持し、フロックを適切に管理することで、浄化処理に繋げることができます。その結果、一般的なエビ養殖と比較して環境負荷を大幅に低減させ、同時に外部からの病原体侵入リスクも抑えることができます。環境に配慮した手法で育成した安全・安心で高品質なエビをお客様に提供することを目指し、技術開発を進めています。

陸上養殖のバナメイエビ

頴娃空撮