養殖魚の成熟制御(人工的に卵や精子を採取)

対象魚種の親から人工的に配偶子(卵や精子)を採取する成熟制御技術の開発に取り組み、さらに優れた養殖品種を生みだす"育種"についての研究を進めています。

ニッスイでは、受精卵から出荷までを管理した一貫養殖を目指しています。

天然資源にできる限り依存しない養殖を実現するために、対象魚種の親から人工的に配偶子(卵や精子)を採取する成熟制御技術の開発に取り組んでいます。

【写真】ぶりの人工採卵

ぶりの人工採卵

(魚のストレスを軽減するため、
麻酔をかけて採卵)

養殖対象魚種の人工種苗の生産に成功

現在、多くの養殖ではその種苗を天然資源に依存しています。漁獲資源の枯渇が危惧されている昨今、人工的に種苗を生産した方が環境に与えるインパクトが少なく、より安定した生産につながります。
そのためには、親魚を養成して性成熟を誘起し、機能的な配偶子(卵や精子)を得る必要があります。

これまでニッスイでは、さけ、ます、ぶり、まだい、うなぎ、とらふぐ、くろまぐろ等、さまざまな養殖対象魚種の人工種苗の作出に成功し、生産した種苗を一部産業化しています。

しかし、計画的に安定して親魚の性成熟を誘起することはなかなか難しく、現在も研究を続けています。

【写真】水温や日長などの条件を任意で<コントロールできる大型水槽で親魚を飼育

水温や日長などの条件を任意で
コントロールできる大型水槽で親魚を飼育

「親魚をどんな環境で飼育すれば、性成熟に至るのか」を明らかにする研究

養殖魚の多くは決まった季節に繁殖を行い、明確な生殖周期を持っています。
しかし、飼育下では産卵しない魚種や、受精能力のある卵や精子をなかなか作らない魚種もいます。

生殖周期は、水温、潮汐、日長など、さまざまな外部環境要因の変化に影響を受けています。
養殖魚も、これら要因の刺激を感覚器官で受容し、それが情報として脳で統合され、生殖腺の発達に影響を及ぼしているのです。

この一連の反応には生殖に関連するホルモン等、多くの因子が介在しています。

【写真】ぶりの卵巣組織の観察

ぶりの卵巣組織の観察

(生きたままのぶりから卵巣の一部を
採取し、発達の進行を確認)

しかし、生殖に関してはまだ不明な点が多く、さらには多様な生殖様式を持つ魚類は種による差異が大きいため、個々の魚種に応じた研究が必要となります。

ニッスイでは対象魚種の生殖生理を分子レベルで解明し、

  • どのような状態の親魚を
  • どのような環境で飼育すれば
  • どのような反応が起きて性成熟に至るのか

を明らかにすることを目的として研究を続け、成熟制御技術の開発を行っています。

環境をコントロールすることにより、一年中「旬」の魚へ

ニッスイではこれまでの研究結果をもとに、一部魚種において、親魚の飼育環境を積極的にコントロールすることで通常の産卵期以外の時期に性成熟を誘起し、人工授精による受精卵を得ることに成功しています。

例えば、ぶりは天然では2月頃に東シナ海の南部で産卵を行いますが、飼育下で光周期と水温を操作することで、11~12月に採卵・人工授精を行うことに成功しています。(*1)

【ぶりの卵巣組織像】

【写真】未熟な卵巣内の卵(卵母細胞)

未熟な卵巣内の卵(卵母細胞)

【写真】環境操作により発達した卵母細胞

環境操作により発達した卵母細胞

また、実際の養殖生簀を使って、生産した種苗をこれまでにない時期に養成開始することで、おいしいサイズのぶりが品薄になる春から夏にかけても、安定して食卓にお届けできるようになりました。

  • *1:この研究成果の一部は、独立行政法人水産総合研究センターとの共同研究によるものです。
【写真】黒瀬ぶりの生簀

黒瀬ぶりの生簀

形質の優れた特定の親から、優れた養殖品種を作出する"育種"

性成熟をコントロールできることは、任意の時期に種苗生産ができること以外にも、大きなメリットがあります。

【性成熟コントロールのメリット】
  • 任意の時期に種苗生産ができる
  • 形質の優れた特定の親から次世代を生産し、優れた養殖品種を作出する、"育種"が可能

養殖では牛、豚や鶏などの畜産と異なり、ほとんどの場合、天然魚と遺伝的にはなんら変わらない野生種を養成しています。

しかし、飼育下で性成熟を誘起し、人工授精ができるようになれば、形質の優れた特定の親から次世代を生産し、優れた養殖品種を作出する、"育種"が可能になります。
ニッスイでは、養殖魚として望まれる形質の選定とその選抜方法、DNA鑑別による家系管理方法、遺伝学的な解析による効率的な育種方法の研究開発も行っています。