旬は1年中!? 完全養殖「黒瀬ぶり」
そのおいしさには、理由がありました

脂がほどよく乗って歯ごたえのよいブリが1年を通して食べられる。
そんな「黒瀬ぶり」は、今や養殖ブリの最高峰といわれています。
ニッスイグループがブリ養殖事業を始めて約20年。
その裏側には、弛まぬ努力と深い"ブリ愛"が込められていました。
人工種苗100%を成し遂げた「黒瀬ぶり」。おいしさとともに、サステナブルな養殖技術。
そのこだわりを、ブリ養殖に長年携わるお二人に黒瀬ぶりがインタビューしました。

登場人物&魚紹介

株式会社ニッスイ 
中央研究所大分海洋研究センター
三木孝久さん
皮と身の間がおいしいブリを、皮ごと調理する「酢ぶり」がおすすめ!
黒瀬水産株式会社 生産推進部
久保田洋登さん
黒瀬水産の本社がある宮崎県串間市の
ご当地グルメ「ぶりプリ丼」はうめっちゃが!
インタビュアー:志布志湾育ちの黒瀬ぶり
脂ノリノリで、身がキュッとしまってます!

※2022年3月時点での所属です

今回は志布志湾で育った私が、おいしさの理由をお二人に伺います。まずは自己紹介をお願いします!

私はニッスイに入社以来15年、ブリ養殖の研究に没頭しています。主に大分海洋研究センターで、人工種苗の研究(詳しくは本編参照)に携わっています。

私はニッスイのグループ会社である黒瀬水産に14年ほど勤務していて、現在は企画管理や営業開発を担当しています。

"おいしいブリ"にイメージチェンジ!その訳は

大分海洋研究センター近くで漁業を営んでいる漁師さんに、養殖の「黒瀬ぶり」が人気と聞いてびっくり!漁師さんも食べているんですね?

そうなんです。昔は養殖ブリは「匂いが強い」と敬遠されたこともありましたが、配合飼料の開発や完全養殖技術の進展で2015年頃から2歳で4.5kgほどの脂ののった若ブリができるようになり、「おいしい!」と言ってくださるようになりました。昔の養殖ブリの味を知っている方々だけに、うれしさもひとしおです。

上が完全養殖の「黒瀬ぶり」。下の天然種苗による養殖ブリと比べると大きさの違いがわかる

昔の養殖ブリは2歳の春では2.5kgくらいのものも多かったから、4.5kgって本当大きく育ちましたよね!

トウガラシでキレイになる!?

おいしくなった秘訣はなんでしょう?

まずは配合飼料ですね。養殖魚のおいしさは飼料次第です。20年ほど前でしょうか、当時の研究員が、それはもうあらゆる配合を実験していたところ、トウガラシのすごい効果に辿り着いたそうです。

トウガラシ??私もトウガラシを食べているんですか?

ブリは通常、加工して数日経つと血合の色が悪くなってしまうのですが、トウガラシを配合した飼料だとそれが悪くならないんです。しかもほどよい脂のりになり、歯ごたえも向上しました。ニッスイ独自の「マブレス」と名付けて、ニッスイグループで育成する養殖ブリに使われています。

刺身加工8時間後(冷蔵保存)でも色が変わりにくい「黒瀬ぶり」

あの飼料が、ニッスイのオリジナルだったとは!

その身質や色合いの良さを保つためにも、黒瀬水産では水揚げの後加工から出荷まで、鮮度を落とさない工夫をしています。ブリが動き回って身をいためないように水揚げ船の中で活締めしてすぐに氷水の中に入れ、温度管理された加工場に直行。冷却を継続しながら処理して出荷します。

時間との戦い! いろいろな人が関わっているんですねぇ。

旬は冬に限らず!春夏でもおいしいブリが食べられます

「黒瀬ぶり」は天然ブリと違って、春夏に出荷できるのはどうしてでしょうか。

天然ブリは冬が旬ですが、私たちは春夏でもおいしいブリを生産したかったんです。そのためには天然ブリよりも早い時期に人工的に卵を得る必要がありました。水温や日長など、ブリが成熟してくれる環境を徹底的に研究し、いつでも採卵することができる「成熟制御」という技術を構築しました。

成長期のブリに「もう大人になっていいんだ!」と感じさせるんですね。

そうなんです。そして卵を孵化させて、稚魚に育てる「人工種苗」を研究しました。いわゆる完全養殖といわれる方法です。これが最初はなかなかうまくいかなくて。本来孵化する時期とは異なるので自然海の環境は合わず、陸上の水槽でコントロールすることに。面白いのが、卵から孵化すると3日目に口ができて餌を食べ始め、4日目に水面の空気を飲み込む行動をして鰾(うきぶくろ)を作るんです。その袋がちゃんとできないと成長したときに形が悪くなってしまうので、光の強さや水流など飼育環境を微調整しながら行動を促すというのが大変でしたね。

ブリの仔魚。鰾ができるとバランスのとれた形に育ちやすい

ニッスイの大分海洋研究センターでは養殖に特化した研究開発を行っている

おいしいだけじゃない!サステナブルな養殖技術

黒瀬水産の頴娃(えい)種苗センターでは、三木さんがいる大分海洋研究センターと協力しながら人工種苗生産をしています。最近は生産も安定してきたので、2022年度からは出荷の100%が人工種苗の完全養殖「黒瀬ぶり」になります。天然の稚魚を捕獲しなくて済むようになれば、海の資源保護にも繋がります。

技術の向上で海を守り、季節を問わずおいしいブリを届けられるのはうれしいです!!

ダイバーが潜って行う、ブリの健康チェック

同じブリといっても、私たちには個性もありますし、毎年おいしいブリを育て続けるのは大変なのでは?

和牛の育種のように、DNAによる親判定をして近親交配が起きないようにしています。家系も判断できるので世代ごとに選別し、重量や肥満度、プロポーション、遺伝的な免疫力なども考慮して、優良なブリを次世代の親にする「先端的育種」を行っているんですよ。

言われてみれば、祖父母や両親も健康優良魚と自慢していたような...。

ブリが病気になった時に検査をするのはもちろん、常にブリの健康状態を確認するため、ダイバーが毎日潜り、異変を早期に発見・対応できる体制をとっています。

魚病の検査員資格を持つダイバーもいる

毎日一緒に泳いでいる人は、私たちが元気かを見てくれているんですね。

研究所でも寄生虫がつきやすい時期などを見極め、ともに健康管理に努めています。

研究センターと黒瀬水産は一心同体ですね。いつもお世話になってます(笑)。

日本育ちの養殖ブリが、世界中で愛される日を目指して

これまでブリに関わってきて、うれしかったこと、これからしたいことはありますか?

人工種苗の研究をはじめて15年。当初はうまくいかずにプロポーションの悪い魚などもあり、水揚げ船や加工場の方にご迷惑をかけることもありました。しかし、技術を確立してからは生産も安定し、重量も4.5kg級に。いつだったか加工場で「この時期(春)に、こんないい状態のブリを見たことない!」という評価をもらえたときはうれしかったです。

このおいしいブリを日本だけでなく海外の人にも食べてもらいたいですね。もっと生産を安定化させて、世界中にジャパンブランド「黒瀬ぶり」のおいしさを届けていきたいと考えています。本当においしいんですよ(笑)。

そのためにも、研究センターでは黒瀬水産と協同して、より良いブリの生産拡大を目指しています。

「黒瀬ぶり」が世界に! ワクワクしてきました。今日はありがとうございました!

~「黒瀬ぶり」の故郷から届く元気な声~

「黒瀬ぶり」は多くの仲間に
大切に育てられています!

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