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PROJECT STORY02

ふっくら
切身

が水産を変える

つくる技術

「冷凍の切身」を

冷めてもおいしい

冷めてもおいしい
「冷凍の切身」をつくる技術

みなさんは、冷凍の魚の切身を食べたことがあるだろうか。
「食べたことがない」と答える人の中にも、おそらく、
それが冷凍のものだと知らずに、口にしている人も多いと思う。

それほど、世の中のさまざまな場所で、冷凍の魚の切身を使った料理が提供されているのだ。

しかし、使用されている場所が多いにも関わらず、冷凍の魚の切身には一つの問題があった。それは、......。
この話は、世の中に「冷凍の魚の切身」をお届けしたいと考えた、日本水産の奮闘の記録である。

登場人物

研究

杉山

中央研究所 水産食品研究室 研究室長。多くの研究の実用化を成功させた、研究室のレジェンド。

商品開発

牧野

水産加工品の商品開発に携わる。営業の経験もあることから、魚を取り巻くマーケットの情報にも強い。

生産管理

圦山

中国にある日本水産の商品製造工場で生産管理および事業運営を務める。「香り技術プロジェクト」にも登場。

営業

山口

大阪支社に在籍し、水産品の営業に携わる。担当は岡山エリア。卸売企業や小売店などに魚を販売。

※記載した内容はすべて、開発当時のものです。

水産加工を見つめなおした、
日本水産

「ニッスイさんは、冷凍の切身は扱ってないんけえ?」
「いやぁ、ウチは扱ってないんですよ。切身をフライにした商品ならあるんですけど。どうです?」

岡山県内で水産加工品の営業を担当していた山口は、お客様から質問されるたび、そう答えていた。そして疑問にも思っていた。どうして日本水産は、「冷凍した魚の切身を扱わないのだろう」と。

冷凍の切身は、調理の手間を省くうえに、長期間の保存が利く水産加工品である。昨今は水産業界に限らず、さまざまな食品会社が、お手軽さを売りにした食材を開発する時代。それなのに、お客様先に商品を紹介できず、歯がゆい思いをしていた山口は、今後必ず冷凍の切身は需要が増え、商品さえ手元にあれば十分売り込める。そう信じていた。

時を同じくして、商品開発の牧野も考えていた。「水産」を社名に冠する企業にも関わらず、お客様が欲する商品をお届けできていないのはどうなのか、と。すでに、冷凍の切身カテゴリーは、競合他社に先行されていた。他社の商品は年々、流通量も増加傾向にあり、お客様の満足度も高いと聞く。牧野は商品を開発する立場として悩んでいた。このまま、ビジネスチャンスを逃したままで良いのだろうか。

答えはわかっていた。「俺たちは水産会社だ。」お客様のご要望があるならば、幅広い魚種の切身を扱えなければならない。言われなくても、営業の気持ちは痛いほどわかる。何しろ、牧野自身も営業を経験し、お客様に鍛えられてきたからだ。

話は少し脱線するが、日本水産は、魚の美味しさを維持する方法を知っている。それは、「鮮度の良い魚を、鮮度の良い状態で届ける」ことだ。当たり前だと思われるかもしれない。しかし、それが一番難しいことでもある。何しろ、日本水産が扱うのは世界中の魚だ。魚の鮮度を維持するために、仕入れから加工、物流の細部に至るまで、「国を越えて、獲った魚をいかに迅速に届けるか」ということに、110年間もの歳月をかけて進化を重ねたのが、日本水産という会社である。

だからこそ、「鮮度を保つためだけに加工する」という技術には、それほど力を入れていなかった。それゆえに当時、水産分野に対する研究数は、食品分野に比べると多くはなかった。研究の杉山は、その状況を危惧していた一人だ。現状のままではお客様の細かなニーズにお応えできなくなり、水産加工品での立ち位置が危ぶまれる。魚の品質劣化を和らげる研究を形にし、商品に活かしたい。

開発の牧野から切身の新商品づくりに挑戦する話を聞いたとき、杉山はチャンスだと思った。

魚の劣化を抑える工夫

競合他社が販売していた冷凍の魚の切身は、介護施設や病院や学校の給食、ホテルなどさまざまな場所で食べられていた。冷凍の切身は、一度に大量に調理でき、短時間で効率の良い作業を可能にし、調理する人の助けとなっていた。しかし、課題もあった。凍ったまま調理すると魚肉から大量に水分が溢れ出し、その結果、身が硬直し、パサパサになってしまう。それが、おいしさを損なう原因になっていた。

そこで、中央研究所の杉山は、ある効果に着目した。冷凍の切身を製造する際には、味付けや生臭さを除去するために、切身を「漬け込み液」に浸す。その漬け込み液を工夫することで、魚肉の筋繊維はほぐされ、水分がたっぷりと保てるようになったのだ。杉山と研究所の仲間たちで解明した成果は、言うまでもなく、一晩でたどり着いたものではない。ただひたすらに、地道な実験と検証を重ねて手にしたものだった。

この技術により加熱調理後、そして時間が経過したあとも、身のパサつきを抑え、身質が硬くならないことが実証された。さらには、魚のうま味成分の流出を抑えて、なおかつ、ふっくらと柔らかい切身を味わうことができた。

試作品を食べて、牧野は確信した。「これなら後発で販売することになっても勝負できる」と。冷凍の切身ならば、調理する人の手間を省ける点はもちろん、それに加えて、日本水産が大切にしてきた「鮮度の高いおいしさ」を届けることができる。商品の名前は、口にする人が食感を想像しやすいように「ふっくら切身」と名付け、商品化の準備を進めることになった。

しかし、一つの問題が浮上した。1〜2種類の魚種だけでは、お客様には取り扱ってもらいづらく、ある程度の商品ラインナップが必要だとわかったのだ。そこで、牧野は魚を調達するために、国内、海外と奔走した。

鮭・スケソウダラ・ホキ・真鯖・ぶり・アカウオ・鯵・さわら。

牧野の努力が形となり、商品は8魚種まで取り揃えられる目星がついた。あとは、工場での生産を経て、発売を待つのみ。ふっくら切身の商品化は順調に進んでいる......。そんな矢先だった。

漬け込み液が
引き起こした問題

中国山東省青島市。ここには、日本水産が販売する水産品と食品の製造工場がある。現地で生産管理および工場経営を任される男が、圦山(いりやま)だった。

話は少し遡る。圦山が着任したころは、工場の経営状態は厳しく、収支改善が彼の至上命題であった。着任から2年ほどの月日が経ち、さまざまな手を尽くしたことで、なんとか経営状態は改善されたが、さらなる業績の向上を目指して奮闘していた。

そんな矢先に、「ふっくら切身」の生産を中国工場でお願いできないか、との一報を受けた。この生産は工場の収支を左右するチャレンジングな案件になるとわかり、圦山は奮起した。

しかし、いざ製造ラインでの生産テストが始まると問題が発生。

漬け込み液に切身を浸すと、筋繊維が通常よりもほぐれるため、魚の皮が剥がれやすくなる。さらに、出荷用の袋に詰める際に切身がくっついてしまうなど、様々な問題が起きた。これらの問題を受けて、改良した漬け込み液は使用しない方がよいのではないか、と口にする者も出てきた。

それでも、圦山が下を向いて立ち止まることはなかった。壁にぶつかったならば、乗り越える方法を考えればいい。製造ラインに改良を加えることは、現状の生産現場を変える大きなチャンスにもなる。トライしたことで、自分たちがやるべきことは明確になっていった。

魚を漬け込む際に使用する大きなタンクを調べてみると、その中で切身がぶつかり合うことで問題が発生していたことがわかった。しかし、製造ラインの設備を簡単に変えることはできない。そして、生産の効率性を下げることもできない。圦山は苦悩した。その時だった。

「このカゴ、何かに使えませんか。」

圦山を助けてくれたのは、現場スタッフからの声だった。そのカゴに切身を小分けにしてからタンクにカゴごと入れることで、漬け込みの問題は解決できそうだ。すぐにそのアイデアを導入してみると、見事に状況は改善した。あとは、袋詰めの工程が鍵だと分かった。この問題は、職員がスピーディに効率よく作業ができるように見直すことで改善された。

圦山は嬉しかった。商品を無事に生産できる目処が立ったのはもちろん、現地の職員の考え方の変化を感じたからだ。着任した当時はトラブルが起こっても、自分だけが孤軍奮闘する日々だった。でも、いまは違う。ともに協力し合える仲間たちが、そこにはいた。

おいしい切身を
届けるために

全国にいる日本水産の営業たちは、顧客への「ふっくら切身」のセールスに励んでいた。しかし、販売動向は思わしくなかった。その理由は明確だった。取引先はすでに競合商品を仕入れて販売しているため、それ以上を扱うことができなかった。もちろん、取り扱いブランドを変更してもらう交渉も行うが、そう簡単にはいかないものでもあった。

しかし、そんな状況に風穴を空けた男がいる。営業の山口だ。冷凍の切身の商品を待ちわびていた彼は、すぐさま営業先の卸問屋に駆けつけた。すでに他社商品の取り扱いがあったため、すぐには良い感触は得られない。ただ、彼には自信があった。商品は介護施設や病院へ納品されており、ご高齢の方や入院患者の方に切身は食べられていた。だからこそ、冷めてもおいしい「ふっくら切身」は、必ずお客様に喜ばれるものになる。そう確信していた。

山口は、営業先に何度も足を運び、事あるごとに「ふっくら切身」をアピールし続けた。そして、納入先である介護施設や病院に、同行営業させてほしいと頼み込んだ。自分の足を使って商品を広めていくことこそが、山口の営業スタイルだ。2ヶ月ほどをかけて、30以上の施設を訪ねただろうか。実際に介護施設や病院の方に切身を食べてもらうと反応は非常によく、手応えを感じた。

そうした粘り強い営業活動が実り、ついには取引先が取り扱う切身のすべてを日本水産の商品に切り替えることに成功した。山口の成功は、他の営業社員の耳にも届き、全国各地でふっくら切身の導入が促進された。

「山口くん。ニッスイの切身に変えてから、食べ残しが減ったんだよ。」

商品導入から数日が経った頃、お客様から嬉しい声が届いた。食べ残しが減ったという事実は、おいしく召し上がってもらえていることの裏付けだ。食品メーカーに勤めていて、これほど嬉しいことはない。山口の頬は思わず、ふっくらとゆるんだ。



その後、「ふっくら切身」の販売数は、全国的にも順調に増えていった。8種類の魚種からスタートしたそのシリーズは、商品のラインナップも拡充していった。さらには、「むきえび」や「シーフードミックス」など、魚以外の水産物にも技術は応用され、冷凍の水産加工品のおいしさを底上げしている。

それにより、「ふっくら切身」をはじめとする商品は、介護施設や病院だけでなく、ホテルやレストラン、さらには一般家庭でも口にされる機会が増え、お年寄りから子どもまで幅広い世代に食べられるようになった。

一度、冷凍した魚でも、おいしく食べてほしい。水産品にかける熱い想いが、日本水産の未来を切り開いたのだった。

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