Date of interview

August 24-27, 2026

Location

ASAHIKAWA / KURASHIKI

Japan #1

(日本前編)

ニッポンの弁当の中には、
食べる人への思いがぎっしり詰まっている。

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VOLUME 1

お弁当

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Date of interview

August 24-27, 2026

Location

ASAHIKAWA / KURASHIKI

Introduction
今回の舞台は日本。日本の伝統的な食文化の中で多くの人になじみ深い“弁当”。その歴史は古く、日本書紀にも記されているほど長く受け継がれてきた食文化だ。そんな弁当は今や“BENTO”として世界の共通語になろうとしている。なぜ弁当はこれほど人を惹きつけるのか。日本各地で愛され続ける弁当を味わうと、そこで暮らす人への思いがぎっしり詰まっていた。

北海道旭川市に、
会話で詰められていく弁当があった。

旭川市の街並み
北海道の雄大な自然と都市が調和する美しい街並み。

旭川駅から北へ延びる歩行者天国の一角に、昼近くになるとできる小さな列がある。その先にあるのは、はやりの映えスイーツではない。のぞいてみるとガラスケースにずらりと並ぶ煮物、あえ物、揚げ物。そんなお惣菜をおかずにしたお弁当を求めて常連が列をなしていた。

ガラスケースに並ぶお惣菜
出来上がった惣菜が次々に並んでいく様子に食欲が刺激される。

この店の弁当は、注文の仕方が実にユニークだ。完成品を買うわけではない。好きなお惣菜を選び、自分好みに詰めてもらう。いうなれば弁当のオーダーメイドだ。常連たちの注文は慣れた様子で、値段を伝えて「おまかせで」と頼む人もいれば、一品一品吟味していく人もいる。メニュー表のない弁当は、会話しながら出来上がっていく。

数多いお惣菜の中でも、多くの人が選ぶ品がある。“のりメンチ”と北海道の鶏の唐揚げ“ザンギ”だ。常連の方いわく「“のりメンチ”と“ザンギ”は絶対外せない。昨日も食べたのにまた今日も来てますね」と語る。「冷めてもサクッとしておいしいんです」とザンギを今日も選ぶ。また別の方は「もう30年以上通っていて、札幌に出た娘が旭川に帰ってきたら必ず“のりメンチ”が食べたいと言う。小さい頃から食べているから家族の味でもあるんですよ」と言う。

この弁当は空腹を満たすだけではない。家族の記憶や思いまで詰め込まれているから何度でも通いたくなるのだろう。そんな常連客の方が愛してやまない弁当をつくり続けるご夫婦に話を聞いてみた。すると、こちらにも家族の物語と思いが詰まっていた。

いつもの顔が並ぶ。いつもの会話が交わされる。いつもの光景だ。

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冷めてからが勝負。
弁当は開けた時に完成する。

弁当は出来上がった瞬間がピークではない。「冷めてからが勝負ですね」と店の主人は語る。確かにザンギを食べた時、時間がたってもカリッとしていた。しかし、この食感と味にすぐにたどり着いた訳ではない。ご夫婦共に食べることが大好きで、あちこち食べ歩いても味の探求が頭から離れることはない。常に新しい味を研究しているという。北海道にザンギを出す店は山ほどある。それでも常連客の方は「ここのザンギは特別」と自信を持って語る。守るだけではない改善の積み重ねがあった。

常連客の方々は思い思いに注文していく。「カニクリームコロッケは半分で」「ハムカツは4分の1で」という注文にも喜んで応えてくれる。何事も効率化が求められる時代に、この形式は非効率なはずだ。「でも好きなものだけが詰まった弁当ってうれしいじゃないですか」と笑顔で語る奥さまの優しさが心に沁みる。

仕込みは同じことの繰り返しに見えて、季節や天気で微妙に変化を加えるという。毎日違うことの積み重ねだ。

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旭川市で愛され続けるこのお惣菜と弁当の営みは、終わりかけたことがあったという。この店をはじめたのは奥さまのご両親。高齢のため店を閉めようとした時「なくしてはいけない」と立ち上がったのが、当時全くの異業種で営業職をしていたご主人だ。30年以上前、未経験から店を継ぐことを決意。夜明け前から仕込みを始める、それまでとはまったく異なる生活が始まった。大変だと止められても迷いはなかった。夫婦二人三脚で役割を分担しながら毎日時間とお惣菜を積み上げてきた。

北海道旭川市で愛され続ける弁当には「いつもの」がある。それがいかに難しく貴重なことか。この弁当を通して見えてきたのは、食べる人とつくる人が結ぶいとおしい日々の営みだ。そのぬくもりをいただいて、日本の弁当文化を探る旅へと次の町に向かった。

弁当屋のご夫婦
また食べたくなる弁当がある。また会いたくなる顔が待っている。

岡山県倉敷市に、
元気がぎっしり詰まった弁当があった。

倉敷美観地区の街並み
柳並木が続く白壁の蔵屋敷は、江戸時代からの風情を残す街並みだ。

昼時になると、どこからともなく人が集まってくる場所がある。長く倉敷市で大学生たちの胃袋を支えてきた弁当屋だ。弁当を買って帰る人もいれば、店先の簡易的なベンチとテーブルで食べていく常連の方も多く、みんな思い思いに過ごしている様子がうかがえる。

弁当屋の目の前には大学があり、近くにまた別の大学もある。常連の大学生が元気に語ってくれた。「ほぼ毎日通っていますね。どれもおいしいし、メニューも多い。腹一杯になります」。大学生の胃袋を満たすというその量を、この価格で提供するのはこのご時世に頭が下がる思いだ。

学生たちにとっては第二の実家のように落ち着く場所だ。

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県外から親元を離れて大学に通う女性グループの一人は「試験が大変な時には頑張ってねと女将さんが声を掛けてくれる。だから、また頑張ろうと思える」「女将さんは、こっちのお母さん」とうれしそうに言う。弁当と一緒に学生たちが受け取っているのは弁当だけじゃない。一人一人を見つめているからこそ掛けられる言葉も味わいの一つになっている。

学生たちは、弁当のぬくもり以外の温かい何かも受け取っているようだ。安くてボリュームが売りの弁当屋なら他にもあるはず。ここにはみんなを引き寄せる磁力のようなものが存在する。そこにはカウンターの向こうで陽気な笑顔で弁当をつくり手渡し続ける女将さんの姿があった。

弁当は、みんなが立ち寄れる心のよりどころになれる。

ここまで学生を惹きつける魅力は一体何だろうか。種類が豊富でボリュームも満点。その反面、今も昔も物価高との戦いだ。しかし女将さんが断固として曲げない信念がある。ご飯やおかずの量を減らしたら?と逆にお客さんに言われることもあるそうだ。「でも私は、いや、いけん!と譲らないんです」と笑いながら言う。このご時世になぜそこまでやるのか。「学生が喜んで来てくれることが何よりうれしくて。その一心でやってきたから」。何と頼もしい答えだろう。

メニューの中で気になる文字が目に留まった。「だけ弁」と書いてある。何かと聞いてみると、メインのおかずとごはん“だけ”。これも女将さんの学生を思う気持ちから生まれたメニューだ。「学生はお金がないから普通の弁当ばかりは食べていられないでしょ。でも満足してほしいから好きなおかずとごはんだけの“だけ弁”をつくったの。そうしたら安いのに大満足とヒットした」と笑いながら言う。一体どこまでお客思いなのだろうか。

豊富な弁当のメニュー
メニューの種類が豊富で、これなら毎日通っても飽きることはない。

人を惹きつける理由は量や安さだけではない。ごはんが冷めてもパサつかず、ツヤツヤしていておいしいことに目を見張った。「そこに気づいてくれてうれしいわ。ウチはごはんが一番ですから。ずっと岡山県産米にこだわって使い続けています。大変な時もあるんですけど」と言う。おかずをしっかり受け止める、弁当の主役はやっぱりごはんなんだ。

今では常連客の方が店先のテーブルで弁当を食べて行く風景が日常になっているが、ここにもお客さんを第一に思う気持ちがうかがえる。「買って帰っても食べる場所がない」という声に、店先にベンチを出し、倉庫も開放した。簡易的な空間なのに何とも居心地がいい。だから引っ切りなしにお客さんがやってきて、また学校や職場に戻って行く。そして数年後にまたここに戻ってくる卒業生も多いという。「何十年かぶりに訪ねて来て、同窓会のように弁当を買いに集まってくれたり、赤ちゃんを見せにきてくれたり。お弁当のつながりでみんなが親しんでくれていると思うと絶対にやめちゃいけんと思います。それが私の原動力なのよ」。弁当でおなか一杯になったが、何だか心まで元気一杯になる。倉敷市でそんな弁当に出会えた。

手際よく仕込みを終えて開店を迎える。何十年と繰り返されてきた営みだ。

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食べる人を思いながらつくられる。
だから弁当は冷めてもぬくもりがある。

ひとつひとつ丁寧に弁当を詰めていく。中にはこんなにも思いが詰まっている。

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旭川市の弁当屋も倉敷市の弁当屋も、味や形はそれぞれ違う。しかし弁当に詰まっていた思いは同じだ。いつもの場所であり、つい立ち寄りたくなる場所であり、何より「こころのよりどころ」であり続ける。思いが詰まった弁当は、ここまでの存在になれるんだ。

地域の暮らしに根ざした弁当屋を巡り、弁当に込められた技と思いに触れた旅を終えた。後編では、東京から日本全国の食卓へ。食への思いを届け続ける人たちがいる。その志に会うために東京のとある研究所へ向かった。

※人物の所属および掲載内容は2026年8月取材当時のものです。

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