すりみの品質向上

米たんぱく質を活用し、弾力のある食感のすりみを開発。さらに、魚肉を水洗いしない栄養成分の高いすりみの開発を行っています。

【写真】すりみの主原料のすけそうだら

すりみの主原料のすけそうだら

すりみの作り方

「すりみ」は、魚から頭・内臓・骨・皮などを取り除き、残った身の部分を洗いながらよく水にさらし、細かくすりつぶしたものです。

ニッスイでは、その「すりみ」の材料となる白身魚を北米のアラスカなどにある現地のグループ企業やパートナー企業と連携して、必要量を確保。
季節や環境の変化に関わらず、質量ともに安定したすりみの生産を実現しています。

すりみは、次のような製法で作られています。

【すりみの作り方】
  1. (1)原料とする魚から頭と内臓を取り外し、採肉機にかけてミンチ状にします
  2. (2)ミンチ状にした魚肉を水洗い処理します
  3. (3)水洗い処理した魚肉から皮・スジ・骨を取り除きます
  4. (4)取り除いた魚肉を脱水します
  5. (5)脱水した魚肉に冷凍変性防止剤の糖やリン酸塩を添加して混ぜます
  6. (6)冷凍します

すりみの主成分はミオシン(※1)など筋原繊維たんぱく質(※2)で、塩に溶解し加熱するとゲル化するという特性を持っています。そのゲル化する特性を生かして、弾力がある食感のねり製品を生産しています。

すりみのゲル化特性は、原料となる魚の種類や漁獲した魚の鮮度、すりみの加工方法・すりみの保存状態などによって変動します。

米たんぱく質を活用し、安全で高品質なすりみを生産可能に

魚肉に含まれているプロテアーゼ(※3)という物質は、ゲル化する特性を持っている筋原繊維たんぱく質を分解してしまいます。
そのため、すりみの特性であるゲル形成能力を低下させる要因となっていました。

ニッスイでは、そのプロテアーゼへの対処方法として、プロテアーゼインヒビター(※4)として機能する食品素材を使用したすりみの製造技術の開発に取り組んでいます。

当初は、動物由来の食品素材である、牛血漿粉末や乾燥卵白を使用する方法を開発しました。
その後、狂牛病や卵アレルギーの問題から、牛血漿粉末や乾燥卵白を使ってすりみを生産することを中止し、代わりに植物由来のプロテアーゼインヒビターとして、米たんぱく質を開発しました。

米糠からの抽出物である米たんぱく質には、害虫から身を守るためにプロテアーゼインヒビターが含まれていることが報告されていましたが、ニッスイではすりみの製造でもこの米たんぱく質が利用できるよう、独自の抽出方法を開発したのです。

【図】インヒビターによるゲル強度向上のメカニズム

インヒビターによるゲル強度向上のメカニズム

魚肉を水洗いしないすりみの開発で、水溶性のたんぱく質を保持

すりみの品質を向上させるためには、魚肉を丁寧に水洗いすることが重要です。
水洗いすることによって、ゲル形成を阻害する水溶性成分と冷凍変性を促進する物質を除去し、筋原繊維たんぱく質を濃縮できるからです。ただし水洗いによって、水溶性のたんぱく資源も流出してしまいます。

その他、例えばたら類は洗わないまま長期間冷凍保管すると、身がパサパサになり、嫌な魚臭さが発生します。

これは、冷凍中に魚肉に含まれるトリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)(※6)が分解され、たんぱく質の変性が進行するためです。
そのため魚肉を水洗いし、品質に悪影響を及ぼすTMAOを除去した上で、すりみを製造する必要がありました。

【図】すりみ製造時には1/3のたんぱく質が流出してしまう(当社研究所の試算データより)

TMAOが分解するメカニズムについては未解明でしたが、ニッスイでは北海道大学との共同研究でTMAOの分解に関与するアスポリン(※7)を同定し、TMAOの分解を制御する技術開発の足掛かりとしました。1)

  • 1)  J. Biol. Chem., 278, 47416-47422, (2003).
    現在は、魚肉を水洗いしなくてもTMAOの分解を抑えられるすりみ(無晒し魚肉(※8))の製造方法を開発し、製品化への取り組みを進めています。
【図】RT-PCR(※9)と呼ばれる分析方法で、アスポリンがどの組織に存在しているか観察した写真

RT-PCR(※9)と呼ばれる分析方法で、
アスポリンがどの組織に存在しているか観察した写真

用語集

※1:ミオシン
筋肉に含まれる主要なたんぱく質。筋原繊維を構成します。筋原繊維たんぱく質にはミオシン約60%、アクチン約20%、その他トロポミオシン、トロポニンなどが存在しています。
※2:筋原繊維たんぱく質
筋肉を構成する筋原繊維の成分となるたんぱく質。魚の筋肉は約50%が筋原繊維、約26%が筋形質たんぱく質、約8%が筋膜などのコラーゲンで構成されています。
※3:プロテアーゼ
たんぱく質を分解する酵素で、システインプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、酸性プロテアーゼの4種類に分類されます。それぞれの種類でたんぱく質を分解するメカニズムが異なります。
※4:プロテアーゼインヒビター
プロテアーゼの働きを阻害する物質。インヒビター物質により、阻害できるプロテアーゼの種類が異なります。米たんぱく質はシステインプロテアーゼに作用します。
※5:塩ずり
ねり製品の製造工程において、すりみに塩を添加し、たんぱく質を溶解させる工程。しなやかなゲル物性を求められるちくわや、かまぼこのような製品で用いられる工程となっています。
※6:トリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)
海産魚の筋肉中に豊富に含まれるエキス成分。魚が生きている間は浸透圧の調節に働いています。
※7:アスポリン
魚の筋肉や腎臓に含まれるたんぱく質。アスパラギン酸が豊富に含まれる特殊な構造で、TMAOの分解に関与しています。
※8:無晒し魚肉
すりみ製造時の水洗いは「水晒し工程」と言われます。水洗いを行わないすりみ(魚肉)は「無晒し魚肉」や「落とし身」と呼ばれています。
※9:RT-PCR
たんぱく質をコードする遺伝子を選択的に増幅し、または少量しか存在しないmRNAを増幅して解析に使用する遺伝子発現解析の手法のことです。